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  • ikuko shimada

家具ものがたり ~ソファ編~

更新日:2023年5月2日

ふぅ~とソファはため息をついた。

このところ、お気に入りの白いドレスにシミがついているのが気になってしかたない。


お母さんは最近忙しいのか、今もせわしなく部屋の中をあちこち歩き回っている。


ねぇねぇ、ここにシミがあるんだけど、気づいてる?とソファは少し口をとがらせた。


このところ、天気のせいか、気分もスッキリしない。

晴れればこのドレスも洗ってもらえるし、日光浴もできるのに、、、、


やまない雨を窓越しにぼーっと眺めながら、あぁ〜とまたため息が出た。


無口な兄のソファは、すぐ隣でいつもと変わらず、大きな体でどっしりとかまえている。


この家のノリのいい息子たちとは、同世代ということもあって気が合う。

そのせいか、引越しをする度に私を一緒に連れて行きたがるので、その度にちょっとした騒ぎになる。


私は、縦になったり横になったり、くるくると向きを変えられて、いくつも部屋を通り抜け、目がまわりそうになりながら外に運び出される。


まるでお神輿のようだ。


私はこの日を「お祭りの日」と呼んでいる。


おいおい、また出かけるの?

あー僕にぶつからないでよー

テーブルもひやひやしながら、私のアクロバットな動きを見守っている。


そして、大きな車に乗り込むと彼らと一緒に遠くの方まで出かける。

時々お父さんが自分の車で送ってくれることもあって、

その時は家族旅行気分でとても楽しい。

お父さんも、いゃ~大変だな~と言いながら、けっこう「お祭りの日」を楽しんでいる。


でも、兄のソファにはその度に寂しい思いをさせているけど、、、ごめんね、お兄ちゃん。


また雨が強くなってきた。


当分ドレスのお洗濯と日光浴は無理かなぁ。

晴れtたらきっと、お父さんがテラスでクッションをギューと押したり

パンパンと叩いたり、ゆがんだ形をきれいに整えてくれる。


お父さんはツボを心得ていて、さすが!って思う。

凝り固まったものがだんだんとほぐれていく。


はぁ〜〜これが、最高に気持ちいいのよねぇ。

眩しい太陽の日差しのなか、身も心もリラックスできる。


私はこの日を「エステの日」と呼んでいる。


思い出すだけで自然に笑みがこぼれてくる。


日向ぼっこをした後、洗って真っ白になったドレスをお母さんが両手に抱えて持ってくる。

ほら、シミとれてる!あー良かった〜


お母さんが、嬉しそうに私に真っ白になったドレスを着せてくれる。

お洗濯するといつも少しばかり縮んでしまうドレス。

最初はちょっとだけ窮屈だけど、何度かうぅ~んと伸びをすると、ちょうどいいサイズ感になるのをお母さんさんもよく知っていた。

洗いざらしのドレスを着られる気持ち良さを知っているのは、この家では私だけよね!


エステの後は、家族みんなが私のところにやってきて、あー気持ちいいとダイブしてくる。

ふっかふかだね!このカバー、洗いざらいしでいい感じ。手入れするとやっぱりぜんっぜん違うね〜


ちょくちょくやってあげないとなぁ、とお父さんも満足気に腕組みをしていた。



隣の部屋では、テーブルがまた何かブツブツと独り言を言ってる。

彼はこの気持ち良さを知らないだろうなぁ。


すぐ傍には、いつもニヤニヤしている若い年下のキャビネットがいるんだけど、この子にもわかるはずはない。

だってこないだも、遊びに来た子どもたちからカラフルなマグネットをつけられて嬉しそうにきゃーきゃーと一緒になって騒いでたし、、、、、



早く雨が上がりますように。

ソファはそう言って心待ちにしている「エステの日」を思いながらゆっくりと目を閉じた。


傍で人気アニメキャラクターのマグネットを逆さにつけたキャビネットが、うっとりとしているソファの顔を不思議そうに見ていた。







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