うひゃひゃ〜やめてやめて、くすぐったいよ〜
スチールキャビネットは、少し甲高い声で叫ぶと硬い体をよじるようにした。
幼い子どもたちが人気キャラクターのマグネットをキャビネットの扉にパチンパチンとくっつけたりとったりして遊んでいる。
はしゃぐ子どもたちの声とスチールキャビネットの叫び声でいつも静かなリビングルームは騒然としていた。
キャビネットは叩かれても押されても文句を言わず、子どもたちと楽しそうに遊んでいる。今度はシールをペタペタと貼られ、あっという間に扉はシールだらけになってしまった。
あーそれはもう反則だよー
ひゃーくすぐったいんだったら~もう~。
こんなに家の中が賑やかなのは久しぶりだなぁ。
この家では先輩格のダイニングテーブルが、子どもたちの走り回りる様子に目を白黒させながらも微笑ましく眺めていた。
はは、キャビネットのやつ、まんざらでもなさそうじゃないか。
キャビネットがこの家で暮らすようになってまだ日が浅い。新しくてスチールというだけで、パパもママも僕が元気で強いと思っている。それを証拠に何でもかんでも僕の頭に荷物をのせてくるんだ。
ポスターや雑誌ならまだしも、分厚い本をいっぱい重ねてくる。僕の頭の上はもう重いお荷物でいっぱいだよう、まったくぅ。
本はさ、ブックケースが担当するんじゃないの?フツーはさぁ。
もうお腹の中だって書類やらファイルやらで満腹なんだよ。最近太ってきた気がするんだから、もう勘弁してよー。
スチールキャビネットはこの家にやってきた時から、憧れはテレビボードだった。家具の仲間の中で唯一エレクトリックでイケてるテレビボードの兄さん達。
スチールキャビネトも本当はテレビボードみたいにメカニックなものを抱え、後ろを配線コードだらけにして長く編んだような髪にしてみたいのだ。
まるでペットのようなお掃除ロボットが足元のコードにまとわりついてくる時の
「絡むんじゃねえぞ」
という態度がたまらなくかっこよく好きだった。
今、カッコよさとか風格とかそんなものが欲しくてたまらない!
僕も時間が経つとかっこよくなれるものなのかなぁ。
洗いざらしの白いドレスが自慢のソファは、チラッとキャビネットの方を見ては、ハァ〜とため息をつき、何デレデレしてんのよ~と呆れ顔だった。
お菓子を持って走り回る子どもたちがドレスを汚さないかと気になってしかたがなかったが、またお母さんに洗ってもらえばいっか、と、さっきから目の前のテレビ画面に映る女の子の水色のドレスが気になっていた。
こんなドレスもいいなぁ。妄想が膨らんでいく。
そんな様子をダイニングテーブルのすぐ横にかまえている大きな木のキャビネットが羨ましそうに見ている。
子どもたちと一緒になって遊びたい!そう思うとワクワクしてくる。
が、子どもたちは自分にあまり関心がないようだ。
さみしいなぁ、、、
スチールキャビネットは相変わらず子ども達と大騒ぎをしていて、木のキャビネットのそんな気持ちに気づくはずもなかった。
あったかい空気感が伝わってきますね。